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ああ、遅刻する……。
自転車を漕ぎながら、佐藤里奈は焦っていた。
信号を左に曲がり、一直線の道を登校中の自転車をかわしながら前へ、前へと進んでいく。桜の木のロードは、桜の花びらが宙を舞っていた。
ここの角を曲がれば、後は坂だけ!
入学式後の学校初日に遅刻とあらば示しがつかない。時計に目をやると登校時間まで残り十分しかない。
結局はこの坂道を走らないといけないの?
目の前にある絶望的な坂を見て覚悟を決めると、自転車を押しながら一気に坂を走り始めた。
中学から高校に上がり、新たな門出とどんな人たちがいるのか期待を寄せていた。昨日の入学式では、ほとんどのクラスメイトの顔を覚えることが出来ないままでいた。そして、入る部活はもう決まっている。
野球部のマネージャーになることだ。
息を切らせながらようやく坂を上り終えると、北燕高校の校舎が目の前に大きく見えた。目の前に歩いている女子生徒たちに見覚えがある。ショートカット姿の少女と、髪を腰まで伸ばした背の高い少女が、早歩きをしながら何か話していた。
その場所まで全力で走り、やがて追いつくと彼女たちにペースを合わせた。
「おはよう!」
「あ、里奈ちゃん。おはよう。今日は寝坊でもしたの?」
橋本真莉愛が隣に並んだ里奈に対して挨拶をする。
「あ、うん。目覚まし時計が止まっていてさ……。朝はバタバタしていたよ」
「ふーん。珍しい……。いや、里奈の寝坊する姿が見たかった」
「何を知っているの、真莉愛。今日から私たちは高校生よ。私はもう部活は決めてあるんだから……。里奈も決めているんでしょ?」
湯川翔子が背中にラケットバッグを背負いながら言った。
「うん。もう、決めているよ!」
笑顔ですぐに答える。そう、今日から野球部のマネージャーになることが彼女の目標だ。
今まで兄と一緒に中学まで野球を続けてきた。だが、高校からは女子が野球で試合ができる場所など地元にはない。ソフトボールじゃ、やはり物足りないのである。だったら、高校ではマネージャー兼練習に参加すればいい。幼馴染の真莉愛はバレー部、翔子はバトミントン部である。三人はそれぞれ違うスポーツだが、家が近い事から交流が深いのだ。
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