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「サヨナラだぁ!」
市大中学校の野球部員が騒いだ。翔也はマウンドで崩れる。
「タ、タイム!」
球審が叫ぶ。
「翔也!」
「大丈夫。あと一人抑えて、延長戦で俺が勝ち越してやるよ」
「しっかりしろ。投手は、お前しか残っていないんだ」
チームメイトたちがマウンドに集まって、翔也を励ます。
「俺のミットに目掛けて思いっきり投げて来い。お前は考えるな。俺がリードしてやる。安心しろ!」
「ああ、分かった……」
翔也は帽子をかぶり直しながら、フッ、と笑う。光士郎からボールを受け取り、グラブを拾い上げて、はめ直した。
「……プレイ!」
球審の声で、翔也は腕を振りかぶり、再びボールを投げた。
一球、一球が鉛の球のように重みを感じる。
握力が残ってねぇ……。もうダメだ……。
最後の気力を振り絞って、ボールはキャッチャーミットに目掛けて飛んでいく。
あの青い空の下での炎天下の試合はここ残りがあった――――
もう、あの日はあのチームメイトはとは戦うことのない夏の思い出――――
× × ×
時は流れて、一年後の春――――
翔也は、後部座席で眠りからゆっくりと目を覚ました。
座席を起こし、しっかりと座り直した後、外の景色を見るとそれは今まで見たことのない景色を見ることが出来た。電車が過ぎていくたびに街や自然の景色が変わっていく。こんなに海が近いのは初めてである。
隣の席には、自分と妹の荷物を山のように載せていた。
目の前には妹の紗耶香がすやすやと寝ていた
ここは日豊本線と言った宮崎県の電車の本線である。
「ここが新たな場所か……」
そう呟くと、スマホの画面に目をやる。
あと少しで目的地か……。
今まで関東地方の海のない埼玉県に住んでいた。この宮崎には何度か訪れたことがある。ここには母の実家がある。今まで見たことのない景色。どんな奴と出会うのか。そして、ここでもやっていけるのか。様々な事が頭の中をよぎった。
三十分後、電車は終点・延岡駅のホームに一センチもずれずに指定位置に止まった。先に社会人や学生が降りて行った後についていく。
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