第1章  二十年連続初戦敗退の弱小校

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 お腹の空いた腹を満たすために全部平らげた後、翔也は手を洗い、持ってきた自分の荷物を肩に回し、両腕に辛そうに持ち上げた。 「母さん、俺の部屋はあそこでいいの?」 「あ、うん。階段上がってすぐの場所ね」  目の前の階段の奥にある部屋を見ながら、溜息をついた。 「あそこまで、これを持って行かないといけないのか。でも、往復するは面倒だからな。しょうがないか……」  一歩、一歩上がるたびに足が重たい。 「母さん。後で、飲み物持ってきて……」 「自分で取りに来なさい! それくらいできるでしょ?」 「はーい」  佑理は、皿を洗いながらそう言った。  今まで住んでいた埼玉とは違って、都会からずいぶん離れた場所にあるこののどかな地域は、東京みたいな都会に行こうとするならば高速や飛行機、特急の電車を使って北に位置する九州内最大規模の福岡に行かなければならない。  さて、この暇な時間どうするかな……。  以前、母さんの友人の大家が住んでいた家の所には住んでいた証の傷が残っている。古い木の階段を上がりながら目の前の自分の部屋らしき場所に入る。ベットは二つ、勉強机も二つと妹と同じ部屋らしい。 「マジかよ。一人部屋じゃないんだ……」  荷物を自分の机の下の置き、ふかふかの椅子にぐったりと座る。  前の家も同じ一軒家で妹と同じ部屋だったが、翔也は今年から高校生になる。中学生の妹と一緒の部屋というのは少しおかしいと思った。だが、これはもう母の佑理が決めたことなのだろう。逆らうと、怖いのを知っている。  自分の荷物を開けると一つ目の荷物には引っ越しの際に入れなかったマンガや小説がごっそりと入っていた。二つ目は野球道具が入っている。グラブや帽子、練習着などが詰め込まれていた。  漫画でも読むか。この地域は発売日が一日くらい遅れるんだっけ?  一冊手に取るとそう思う。  それは中学校のアルバムである。卒業生は全校生徒に配られ、三年間の思い出の写真がぎっしりと詰め込まれている。その中でも野球部やクラスメイト達と一緒に写っている写真が印象に残っている。  修学旅行、対抗試合、全中予選。皆と過ごした時間がその中に閉じ込められたようだった。そして、高校に入ったら甲子園に行く。そう皆と誓って、翔也はこの新天地で甲子園を目指そうと思った。
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