第1章  二十年連続初戦敗退の弱小校

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 絶対に高校で甲子園を目指してやる! そして、あいつらとまた、野球がしたい……。  翔也(しょうや)は、埼玉の中学校軟式野球部で二番手の主にリリーフで投げていた。エースで4番のライバルとは、部内で争う程の実力だ。ライバルが完璧に抑えたら、翔也が後半からしっかりと繋いで試合を締める。この二枚看板だった。  そのライバルは、今年の春そのまま同じ中学の系列校の高校に進学した。  次に会うとしたら甲子園だな……。俺達は必ず行く。お前もそっちの県立高で勝ち上がって来いよ。じゃないとやる意味がないだろ……?  翔也が埼玉を去る際に、彼との交わした最後の言葉だった。中学校三年間、市の予選を勝ち上がり、県予選では一度も優勝することは出来なかった。良くて準優勝止まり、ついたあだ名は、『勝ちきれない強豪校』だった。強いことは強いが、あと少しの所で負けが多いチーム。どんなに足掻いても優勝に手が届かなかった。 「こっちでも勝ち抜くには強豪校を相手にしないといけないんだよな……特に選手強化をしている私立校に勝たないと意味がないか……」  アルバムを閉じ、床に置くとベットに飛び移り、横になった。天井には無数の小さな穴のようなデザインされた模様があった。数を数えていくと段々眠くなり、いつのまにか寝ていた。  目を覚ましたのは午後の六時頃だった。妹の紗耶香(さやか)が起こしに来た。晩御飯ができたから降りて来い、と言った。 「さて、ご飯にしようか。今日は寿司よ……」  そう言いながら、何種類の寿司が大皿に載せられて、テーブルの上に出された。埼玉では、あまり食べられなかった珍しい食事だ。 「ここは北浦で魚が大量に捕れるの。それに近くのスーパーでは一貫五十円。安いでしょ。これが田舎の凄さよ」  母親の地元は地産地消で食材も安く、美味しい場所であり、気候も丁度いい。だが、夏になると猛暑が続き、冬になれば雪はあまり降らず、積もらない。 「母さん、俺が入学する学校とどこら辺にあるんだっけ? 一度しか行ってないから忘れてさ……」  佑理(ゆり)にそう言うと、お茶を飲みながら彼女は答える。
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