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「母さんの母校だから少し坂を登らないといけないけど明日、地図でも描いておくわ。今でも覚えているから……」
「ありがとう。それよりも野球部はあるんだよね」
「あるにはあるけど、私の記憶では一度も甲子園に行ったことはないわよ。それよりもここ二十年は一回戦、初戦敗退のチームよ」
佑理がそう答えると、翔也は手から箸を落とした。
「まさか、俺の行く高校ってそんなに弱いの?」
「あんた、知らずに受けたの? でも、今更高校を変更なんてできないわよ。県立は受かった時点で絶対に行かないといけないんだから……」
「マジかよ……。北燕高校とそんなに弱いのかよ……」
そんなに弱い高校だったとは、思いにも思わなかった。以前いた私立中学の強豪校とは一変し、初戦も突破できないチームで甲子園を目指しなど簡単な事ではない。もしかすると、この先、未来永劫強くなることなどないのかもしれないのだ。
「それでも、そこにボールと仲間がいれば野球は出来るじゃない。例え、弱小校でもあんた達が強くすればいいのよ」
「強くするねぇ……。どちらにしろやらないといけない事には変わりないんだよな」
「お兄ちゃん。頑張りなよ……。来年は私も入ってあげるからさ」
「いや、お前が入ったところで何もならねぇーよ。女には野球は出来ないのを分かっている?」
「分かっているって、マネージャーならできるでしょ!?」
「それよりもまずは高校に入れることが先だけどな……」
釘を刺しながら紗耶香に、笑って言った。
「それよりも春休み中にでも見に行かないとどんなチームか分からないよな……」
夏の大会が終わった後、三年は引退し、次のステージに向けて新たな一歩を踏み出していた。高校から県立校に通うために試験勉強に励む者。県外高校から声を掛けられ練習に混じる者もいた。
残りの半年間、翔也は必死に勉強をした。高校に行ける程度の勉強を学年トップの友人に教わりつつ、野球の方もしっかりと練習していた。平日は家の庭でピッチング練習、土日祝日はバッティングセンターに行き、一時間ほど打っていた。冬になると、筋トレとランニングを混ぜながら体づくりをし、北燕高校に合格した。
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