第1章  二十年連続初戦敗退の弱小校

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「知っているか? ここの高校は毎年初戦敗退で現在の部員はマネージャーを入れても四人しかいないんだぜ」 「それ、母さんから聞いた。二十年連続初戦敗退なんだろ? でも、なんでここに入ろうとしたんだ?」 「ああ、俺ん家ここから近いんだよ。それにここは市内では三番目の進学校だから割といいんだよ……」  翔也(しょうや)は柵を越えて、一成(かずなり)の隣に座った。 「そう言えば、なんで翔也はこの高校に入ったんだい? 見慣れない名前だけど市外から通っているのか? 「あ、俺は埼玉からこっちに引っ越してきたんだよ。ここは母さんの母校でさ。野球部が弱いのも知らずに受けちゃったんだよ。俺は投手だからよろしくな」 「ああ、俺達で一緒に頑張ろうぜ。たぶん、そろそろ部活動が始まるんだと思うんだが……。そう言えば、ほかの新入生も何人か見に来ると言っていたな」  気の強そうな一成は笑いながらそう言って、翔也も笑って言葉を返した。だが、部員が四人しかいない事には驚いた。  すると、部室の方で声が聞こえた。野球部の部室の前にはユニフォーム姿の少年が三人と高校のジャージ姿の少女が道具を運んでいた。その下には髪の長い高身長の成人女性の姿があった。バットやボールなどをかご事運びながら階段を下りてくる。もしかすると、例の野球部なのかもしれない。 「じゃあ、これをグラウンドに運ぶから気を付けて道具は降ろしてね。人数分の道具で十分だから……」 「夏ミカン。これだけで十分なの? 新入生も入るのにこれで大丈夫なわけ?」  女が下から声をかけると、少年たちは荷物を運びながら女に訊いた。 「なぁ、もしかしてあの人が監督じゃないよな」  草陰から翔也と一成は、その女監督らしき女性を見ていた。  女性は白いユニフォーム姿で黒い帽子をかぶっていた。胸には北燕と書かれている。野球のスパイクも履いており、明らかに野球部関係者には間違いないのだ。と言うことは、これが総部員の野球部である。 「いや、監督だろ。あの人以外、大人がいる気配はないぞ」  翔也の下で見ていた一成が不安そうにつぶやく。翔也と同じ気持ちらしい。  草陰に隠れている物音にその女性監督は気づいた。 「そこにいるのは誰? 隠れないでこっちに来たらどう?」  優しい声で叫びながら翔也達を呼ぶ。
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