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だから関わり合いになんて、なりたく無かったのだ。この男は温和な風貌の割に押しが強くて、一途だから困る。そんな目をされると、杏菜はつい流されてしまうというのに……。
「……バカ。怪我しちゃうじゃん」
口中で小さく呟いた杏菜は、結局、もう一度窓の開閉ボタンを押してしまった。
彼の指を押しつぶす寸前で動きを止めた窓ガラスは、今度は逆に車のドアの中へとゆっくり吸い込まれていく。杏菜は再び同じ空間の中で、泰生と向かい合うことになった。
「……毎週水曜が休みなの」
この縁は、先に何も生み出さないどころか、厄介の種にしかならない。そう確信しながらも杏菜の口は勝手に自分の休日を語り出し、請われるままLINEの交換までしてしまった。
「娘は保育園に行かせているから、朝9時半から4時までなら空いてる。もしそれで休みがあうなら連絡ちょうだい」
「それなら、ちょうど来週の水曜が空いてるよ。夜勤明けだから」
彼はすぐさま自分の予定をスマホで確認して言った。
「夜勤明けで大丈夫なの?」
「その次の休みまで待ってられないし」
「何もそこまで急がなくても……」
「家はどこ? 迎えに行くよ」
杏菜は泰生の顔をじろりと眺め、それからため息混じりに、自宅アパートの場所を教えた。
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