1-1

8/8
1760人が本棚に入れています
本棚に追加
/501ページ
 だから関わり合いになんて、なりたく無かったのだ。この(ひと)は温和な風貌の割に押しが強くて、一途だから困る。そんな目をされると、杏菜はつい流されてしまうというのに……。 「……バカ。怪我しちゃうじゃん」  口中で小さく呟いた杏菜は、結局、もう一度窓の開閉ボタンを押してしまった。  彼の指を押しつぶす寸前で動きを止めた窓ガラスは、今度は逆に車のドアの中へとゆっくり吸い込まれていく。杏菜は再び同じ空間の中で、泰生と向かい合うことになった。 「……毎週水曜が休みなの」  この縁は、先に何も生み出さないどころか、厄介の種にしかならない。そう確信しながらも杏菜の口は勝手に自分の休日を語り出し、請われるままLINEの交換までしてしまった。 「娘は保育園に行かせているから、朝9時半から4時までなら空いてる。もしそれで休みがあうなら連絡ちょうだい」 「それなら、ちょうど来週の水曜が空いてるよ。夜勤明けだから」  彼はすぐさま自分の予定をスマホで確認して言った。 「夜勤明けで大丈夫なの?」 「その次の休みまで待ってられないし」 「何もそこまで急がなくても……」 「家はどこ? 迎えに行くよ」  杏菜は泰生の顔をじろりと眺め、それからため息混じりに、自宅アパートの場所を教えた。
/501ページ

最初のコメントを投稿しよう!