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 杏菜の中では助けてやったという自覚すらない出来事だったので、彼の心遣いとその義理堅さにはいたく感動した。ちなみに、絡んできた酔っ払いはコンビニ店員さんが呼んでくれた警官が連れて行ってくれたので、実害は何も無かった。  あれは確か5月も半ばくらいの事だったか。だから泰生はまだ衣替え直前で、袖口に特徴的な黒いラインの入った詰襟の制服を着ていた。強い西日に照らされ、彼の頬はりんごのように赤く染まっていた。  杏菜は改めて目の前の少年をしげしげと見つめた。小柄で線の細い印象の男の子。髪の毛は一切手を加えていない鴉の濡れ羽色で、味気ないほどすっきりと刈り上げている。黒縁眼鏡をかけていて、温和な整った風貌で……典型的なイイとこのお坊ちゃんだ。 「ヤダもう。マンガの中だと超エリート校の賢い男子ってのは、俺様キャラか、冷徹キャラか、マジメで面白くない奴か、もしくは一周回ってチャラ男かって決まっているのに、まさかこんなにいい子が存在するなんて」  杏菜がマンガなんて引き合いに出して感心したものだから「え……あ、いえ、僕なんて……」と彼は返答に困った様子で口ごもった。 「謙遜しなくていいって。この前テレビでやってたから、その制服知ってるもん。毎年、東大とか医学部とかにガバガバ入っちゃう、とんでもなくカシコイ高校でしょ。えーっと、名前が……」 「凱成高校です」 「あぁ、それだ。そっか、それで君も医学部狙ってるんだ」 「え?」     
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