1-2

3/8
1760人が本棚に入れています
本棚に追加
/501ページ
 杏菜があっさりと志望先を言い当てたので、泰生は驚いたようだったが、それは単純なからくりだった。 「だって、君が通ってるのって、あのコンビニの上にある医学部専門の予備校でしょ。階段から降りて来るのが、見えたからさ」 「あぁ、なるほど」 「あんな夜遅くまでよく勉強するよねぇ。あたし、座って受ける授業とか苦手でさぁ。高校の時も英語とか数学とか悲惨だったから……あぁそうだ。こうやって知り合ったのも何かの縁だし、メルアドくらい交換しようよ」  ぺらぺら喋りまくっていた杏菜は、唐突に思い立ちトートバッグを探った。生まれて初めて知り合う賢い男子高校生という存在に、すっかり興奮していたのだ。 「……って、あれ? まだ名前も聞いてなかったんだっけ」  携帯電話(そう、10年前はまだスマホが普及していなかった)をいじりながらふと気づいた杏菜が顔を上げると「中嶌泰生です」と彼は名乗った。 「はいはい、中島くんね……」 「あぁ、違います。ナカジマのシマは山の下に鳥を書く方で」  早速アドレス帳に登録しようとする杏菜の手元を、泰生が覗き込んで訂正してくる。 「え? なんかウケる」  杏菜は笑った。杏菜の電話にその名がどんな漢字で登録されていても困るものでもないのに、その辺まできっちりしないと気が済まないらしい。     
/501ページ

最初のコメントを投稿しよう!