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 なにしろ、二人の間には10年もの歳月が流れている。当時、濃紺の詰襟だった彼の着衣はスーツにネクタイという社会人の服装に変わっているし、短く刈り上げていたはずの髪の毛も随分伸びて、黒縁の眼鏡はコンタクトレンズになっていた。そして、背も高く……あぁ、いや、身長は変わらず170そこそこだ。だから細身の小柄な男の子という印象はそのまま……って、それも違う。もう男の子じゃない。そこはやはり大人の男性になっている。 「杏菜さんが本当に……嘘だろ。こんなことって……」  杏菜を見つめる泰生の声が震えている。人柄の滲み出た端正で温和な顔立ちは、当時の面影を色濃く残していたが、胸の奥から溢れて来る感情に揺さぶられて大きく歪んでしまった。そのまま泣き出してしまいそうな気配すら伝わって来る。  杏菜は栗色に染めたセミロングの髪の毛を何度もかき上げ、このありえない状況を整理しようと必死で努めた。 「あぁもう、何なの。ちょっと待ってよ。どういうこと? なんで泰生くんがこんな田舎町にいるの?」 「ぼ、僕は今日からこの通りの先にある濱浦市民病院で働くことになってて。でも、事務方から事前に言われてた提出書類を間違えて持って来ちゃったから、こうやって出勤前に自分で保険医の登録をしに来なくちゃいけなくなっちゃって……」  驚きすぎて頭の中が混乱しているのか、泰生は杏菜なんかが聞いても仕方のない事まで無駄に説明してくれた。  その舞い上がりっぷりがあまりに可愛くて、杏菜はうっかり声を上げて笑ってしまった。 「あぁ、そっか。ちゃんとお医者さんになれたんだね」 「あ、杏菜さんは? あれからどうしてた? どうしてここに……」     
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