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案内されたのは心地よい陽光が降り注ぐテラス席だった。平日だからかお客さんの姿はまばら。おしゃれな籐の椅子はラグジュアリー感を演出し、目の前には壮大な外洋が広がっていて、ロケーションも最高だ。
「辛いのいける? パクチーとか平気?」
泰生に問われたが、そもそもパクチーを食べた事が無い。「何でも食べれるよ」と適当な事を言うと、泰生は嬉しそうな顔で頷き、ホテルでも一番人気だというランチコースを注文してくれた。
その後出された料理は、杏菜には名前がさっぱり分からないものばかりだったが、地元で採れた新鮮な野菜や魚介類をふんだんに使っていて、とても美味しかった。テラス席だけに頬を撫でる爽やかな海風も、波の音も心地いい。これでもう少し暖かい季節なら、アジアンリゾート気分は倍増したことだろう。
娘と二人、ギリギリな暮らしをしている杏菜はともかく、お坊ちゃん育ちの泰生はこういう優雅なところで、お上品なものを食べ慣れているのだろうな、と思っていたら「ここ最近、忙しすぎてジャムパン一つで1日が終わってたから、こういうのは美味しくてたまんない」とわびしい食生活を嘆きながら、むさぼるように口へ運んでいた。その食欲、見ているだけで気持ちがスカッとするほど。
あぁ来て良かったのかも、と杏菜は不意に思ってしまった。
「そっかぁ。半人前だから、いいようにこき使われてるんだね」
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