1-3

3/4
前へ
/501ページ
次へ
 ただでさえ、自分が杏菜を部屋に入れたことから始まったという負い目があるのに、ここまで事態を悪化させられて、その上、叔父さんの隠ぺい工作のおかげで何もさせてもらえなかったとなれば、生真面目な泰生が心を痛めるのは当然の話だろう。  困った人だ。 「そっかぁ。そんなに深刻な展開になっていたなんて知らなくて、あたしの方こそごめんね」  杏菜はこれ以上深刻な雰囲気にならないよう、朗らかに微笑んでみせた。 「てっきり『せっかく高校卒業したのに、杏菜さんてばいつまで経っても髪の毛切りに来てくれないな~国家試験、落ちちゃったのかな~』くらいの話にしかなってないんだと思ってたわ」  その傷ついた心を労わるように、杏菜は彼の拳を自分の手でそっと包み込んであげた。そして強く握り過ぎて固まってしまっている手指を一本ずつほどいていってあげる。 「全くもう……もうちょっとちゃらんぽらんな性格だったら、こんなこともすぐに忘れて他の女の子と楽しく過ごせただろうに。あたしなんかに関わり合っちゃったせいで、貴重な青春、フイにしちゃうなんてさ。もったいないことしてるよね」  言いながら、杏菜はほどいたばかりの彼の手を握った。それがいわゆる恋人繋ぎというやつだったので、泰生は軽く目を見張る。手を繋ぐとそういう些細な感情まで直に伝わって来るものだ。 「いいじゃん、これくらい。すっぽかしちゃった泰生くんの青春、ちょっとでも取り戻そうよ」     
/501ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1758人が本棚に入れています
本棚に追加