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 杏菜は元気よく宣言した。だって今日は過去を後悔しに来たんじゃない。過去を未来へ繋げるために来ているのだ。  シープドッグショーの柵を離れた後は、バスで来ている賑やかな団体さんを避け、牧場を周回する脇道を散策することにした。高原の澄んだ空気は気持ちいいし、色づいた落ち葉のじゅうたんを踏みしめながらの散歩は、ただ歩いているだけなのに気持ちが高揚してくる。絶好の散策日和だ。  傍らを見上げると、泰生は照れくさそうな笑みを顔いっぱいに覗かせていた。ほどなくして彼が繋いだ手をブラブラと大きく揺らし始めたのは、多分ワンコが尻尾を振るのと似たようなものだろうと思う。 「でもさ、杏菜さんも10年前から全然変わらないよね」  泰生は不意にそんなことを言い出した。 「ん?」 「だって、こんなになるまで働いてる」  泰生は繋いでいる手をひょいとかざして見せた。彼の言う通り、指先はひび割れてボロボロだ。 「悪かったね、手入れできてなくて」 「消毒液の使いすぎなんだよ」     
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