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 牧場へ来る途中に場所はお互い横目でちらっと確認していたから、どこにしようかといちいち探し回る必要は無かった。泰生は緊張もあるのか、彼にしては少々荒っぽい運転で山道を下り国道に出た。  ほどなくして海岸沿いに、中世ヨーロッパのお城をイメージした古い建物が見えて来る。どうしてこういう場所には、周囲と調和の取れていない変な設定を持ち込みたがるんだろう、と杏菜はふと思ったが、運転席の硬い横顔を見る限り、その辺りのことはどうでもよさそうだ。彼は「入るよ」と律儀に最終確認をしてから、ハンドルを切った。   平日の昼間だから、空室ばかりだ。適当な部屋を選んで中へ入るとまず目に飛び込んでくるのは圧倒的な存在感を主張するダブルベッドだが、そんなものは無視して、杏菜は手早く靴下を脱ぎ、ロングスカートの裾を短くたくし上げる。 「さぁて、それじゃあ、とりあえず上だけは全部脱いじゃってよ。濡れちゃうといけないから」 「え?」 「だって、髪の毛洗いに来たんだよね?」 「……」 「あたしが洗ってあげるよ。10年前からの約束だし。ほら、遠慮しないでいいからさ」  杏菜は呆けた顔をしている泰生の背中を押して、風呂場へ連れて行った。 「うーん、そうだな。浴槽に入ってもらったらいいかな」     
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