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シャワーの湯加減を確認しながら、シャツを脱いでいる泰生に指示を出す。からっぽの浴槽から首だけ出してもらえば、泰生のズボンも杏菜のカットソーも濡れずに済むと思うのだ。
「こう?」
「うん、そう」
言われるがまま浴槽の中にしゃがみ込み、ちょこんと首を突き出してくれた泰生の頭部に、杏菜はシャワーでお湯をかけた。
「お客さま、お湯加減はいかがですか?」
「……ちょうどいいです」
突如美容師さんごっこを始めてしまった杏菜に、泰生は戸惑いをにじませた返事をした。
杏菜はシャンプーを手に出し、泡立たせた。狭い浴室の中はシャンプーの爽やかな香料でいっぱいになる。
「それじゃあ今から洗いますね」
杏菜はマッサージをするように襟足から丁寧に洗っていった。もちろん、頭頂部の毟られてしまった場所は控えめに。
「えー、いかがでしょう。これでもケアワーカーになってからは、たくさんのおじいちゃんやおばあちゃんの頭を洗ってきて、結構上手だって評判なんですよ」
「……そうなんですか」
「痒いところはありませんか?」
「無いです……」
「じゃあ、お流ししま~す」
おどけた口調で再びシャワーを手に取り、白い泡を綺麗に洗い流してやる。
「続いてリンスで~す」
「あ、いや……」
もう終わりだと期待していたらしい泰生が、浴槽の中でもぞもぞと動いた。
「何? 首痛い?」
「そういう訳じゃないけど……」
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