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 言葉の中にじれったさが散りばめられているが、そこは丁寧に無視して杏菜は美容師業に専念した。 「もうすぐ終わりますから我慢してくださいね……はい、これで終わりです。あ、でも動かないで」  シャワーで流し終えた瞬間、彼が立ち上がろうとするのを制し、今度は白いタオルを持ってくる。頭ごとすっぽりとくるむと、水気を拭き取ってあげた。 「はいはい、そのままじっとしといてくださいね。しっかり拭かないと風邪ひきますから……って、あら。水も滴るイイ男」  タオルの隙間からちらりと覗く顔が妙にボケてて、みっともない。今日は泰生のこんな顔ばかり見ている気がする。 「その顔、なんかウケる」  可愛い、と言う代わりに、杏菜は濡れた彼の鼻の頭へキスを落とした。  それで堰が切れてしまったらしい。もう待ちきれないとばかりに泰生は杏菜へ手を伸ばし、荒っぽく抱き寄せてきた。 「……頭を洗うだけで終わるんじゃないかと、一瞬焦った」  ベッドに寝そべる泰生が、ふと思い出したかのようにぼそりと漏らした。無事に想いを遂げることができ、そんなことを振り返る余裕が生まれたのだろう。  昼間なのに窓もカーテンも閉め切った薄暗い部屋の中、布団に潜り込んで丸くなっていた杏菜はくすりと笑った。     
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