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 10年前、泰生が専門学校の前までやってきたのは、その一週間前の夜に、彼がコンビニの前で酔っぱらいに絡まれたのを杏菜が助けてあげたからだった。  その時にはろくに言葉も交わさず、互いの名前すら分かっていなかったが、泰生は杏菜が持っていたトートバッグに美容専門学校のロゴが入っていたのを手掛かりにして、わざわざ会いに来てくれた。先日の礼を言いたかったのはもちろんのこと、あの場に残った杏菜がその後、酔っ払いにひどい目に遭わされたのではないかと、どうしても気になったそうだ。 「マジで? いや、だって、あれって元々あたしと友達があの酔っ払いに絡まれてて、君はそこに偶然通りかかっただけでしょ。むしろ君の方が巻き添え喰らった、って怒っていいくらいで……」  専門学校の入り口近くで呼び止められた杏菜は、泰生の話の内容に驚き、目を丸くした。 「お礼ごときのためにこんなとこまで来てくれるなんて……うひゃあ、マジでいい子だねぇ、君」     
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