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「あぁ、それは多分、僕じゃなくて他の先生のことで……」 「いえ、中嶌先生も十分若くてカッコイイですよっ!」  最上級の笑みを浮かべ、まくしたてるように話しかけている彼女の言葉を意訳するならば「医者なら誰でもいい」というところか。一人がそうやって前へしゃしゃり出ると、他の女性らも躍起になって、泰生を持ち上げたり、自己アピールに励んだりし始める。その中にはどう見ても泰生の母親世代な女性も混ざっているが、彼女はこれでいいのだろうか?  まるで腐りかけのバナナに群がるハエみたい、と杏菜は心の内で大いに冷笑を浮かべたが、その中心で困ったように照れ笑いを浮かべる泰生の横顔はもっとバカらしく映った。  ……もう帰ろ。  元々低めだったテンションはいまや、地の底まで盛り下がっている。杏菜は即刻回れ右をして会議室を出ようとした。  ところが、だ。 「どこへ行くんです?」と行く手を阻むように話しかけて来た人たちがいた。泰生のせいで手持ち無沙汰になってしまった男性参加者らだ。取り囲まれた杏菜は「少し話でも……」と食い入るような目をする彼らに足止めされ、部屋を出る機会を失ってしまった。  別に彼らだって子持ちの杏菜にそこまで興味があるわけでは無いのだろうが、いかんせん彼らには他に選択肢が無いわけで……。     
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