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「どうもー、お久しぶりです。近くなので来ちゃいました。お元気でしたか?」
村の食堂の一角に腰を下ろす。仕事上がりの時間ということもあり、多くの村人が騒いでいる。
「えぇ、まぁ。おかげさまで」
僕は肉料理を注文し、彼女はトーストとサラダを注文した。いち早く届いたサラダをかじりながら、彼女は話し始めた。
「村の皆さんの評判、すっごくいいんですよー。なんかありました?」
「なにもありませんよ。ただ、思わぬところでの成長を実感できました」
美味しそうな香りを立てて肉料理が運ばれる。僕はナイフをそれに突きたてた。
「直接会いに来るなんて珍しいですね。何かあったんですか?」
「あー、聞いちゃいます?」
声が少し低くなった気がした。彼女は瞳だけを素早く動かすと、テーブル越しに顔を近づけてきた。
「ギルドからの超緊急依頼です。依頼ランクは紫外の白」
「シロ?」
「ですです。紫以上の、誰でもいいから早く来い、ってランクですよ」
僕もテーブルに身を乗り出す。
「……何があったんですか」
彼女は肩に懸けていたカバンから、一枚の羊皮紙を取り出した。
「本当はこんなところで話しちゃいけないんですけどね。王都に黒死龍が向かってきているのが分かったんですよ」
「やばいんですか?」
「すごく、やばいんです」
彼女は改めて周りに聞いている者がいないことを確認し、口を僕の耳元に近づけた。
「龍の身体からは生物にとって有害な魔力が放出され続けています。その魔力に汚染されると黒死病にも似た症状が出ます。つまり、発症してから一週間の猶予をもって死に至るというわけです。猶予と言ってもリンパ腺の腫れと、激しい熱病にうなされ続けた結果、となりますがね」
彼女はため息をつき、音を立てて椅子に座り込んだ。
「抗生物質は作れないんですか?」
「ダメですよ。抗生物質では魔力に対して何にも効果を発揮しないんですから。万が一王都への襲来を許せば、悪性魔力によって半年は汚染された状態が続くと専門家はみていますね。それだけ続けば人間でも肺ペストになりえますし、ネズミに噛まれれば腺ペストにだってなります。なので、何としてでも王都への侵入は阻止する必要があるのですよ」
巨竜災害は毎年のことだったが、今回は規模が全く違うようだ。ナイフが刺さった肉は、いつの間にか冷えて固くなっていた。
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