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荷造りをしていると大勢の村人が顔を見せに来た。皆、口々に出て行かないでくれと言ってくれる。僕もできるならそうしたかった。
でも僕は勇者だ。
この世界に同じ肩書の持ち主が何人いようとも、人々に安心して生活してもらうために勇者になったのだ。決して富や名声のために勇者になった訳ではないのだ。
僕は背中の剣を確かめると、荷物を肩にかけ家を出る。村の入り口では村長と薬師のおじいちゃん、村人たち、そしてギルドの少女が待っていた。
「行ってしまうとは、なんと残念な」
「すいません。録に恩返しもできないで」
僕は目をそらす。
「恩返しだなんてそんな、気にしなさんな。来てくれただけでも感謝しておるよ」
彼は僕の手を取り、石のようなものを握らせた。
「このお守りを持っていきなさい。わが村特産の魔蒼石だよ」
捻じれた紐のような金属細工に、青色の透き通った石が込められている。それは強靭な革紐が通されており、首から下げるとちょうど胸元で輝いていた。ペンダントの輝きがぼやけてきた。
「ありがとうございます、村長」
「いいんだよ。ここを第二の故郷だと思って、また、いつでも遊びに来なさい。ね」
返事がうまくできなかった。人差し指で目をこすり、鼻をすする。そして一度強く目を閉じると、しっかりと見開いた。
「ちょっと街を、守りに行ってきます!」
彼らに背を向けると、もう一度だけ目をこする。そして町のほうを見据えると、ギルドの少女と共に村を出た。
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