わりに合わない緊急依頼<襲来>

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 状況は切迫していた。  黒死龍の侵攻ルート上に築いた三つの防衛地点のうち、すでに二つが破壊されていた。つまり残すところ、この王都前の拠点だけということとなる。  王都は蛮族からの防衛のために城壁が巡らされている。第三防衛拠点と王都城壁が破られることによって、晴れて壊滅してしまうというわけだ。  僕は城壁寄りの後方支援枠に配属された。医薬品や各種資材、弾薬や武具の管理運搬が主な作業だ。時折、第一、第二拠点から怪我人や病人が運び込まれてくるが見るに堪えないものだった。巨竜という分類上、圧倒的な質量に任せた戦闘力は計り知れない。加えて、死に至らしめる悪性魔力を放出し続けているのだ。負傷者達は最高に運が良くても、高熱にうなされて運びこまれる。ましてや運が悪い負傷者ともなると、医者たちは自らの手で、命を終わらせることしかできなかった。  精鋭ぞろいだった前衛拠点でさえこのありさまだった以上、否が応でも浮足立ってしまう。いまにも山の影から死を纏う龍が姿を現しそうで、皆それぞれの作業に逃げていた。  零ナナ式魔導キャノン用に木樽いっぱいの魔力石を馬車へと積み込む。零式魔導キャノンの第七世代で、速射性に優れる。第三拠点には八門配備されており、これが防衛の要となる。  噂によれば零ハチ式の試作型が完成しているそうだ。徹底的に威力だけを重視した結果、実用性が極めて低いらしい。今回の防衛線で使用される話も聞いたが、それらしきものは見当たらなかった。  もちろん魔導キャノンだけでなく、通常大砲や投石器などの物理兵器も多数用意されている。いざその時が来たら、僕もそれらの兵器を操ることになるだろう。 「やぁやぁ、久しぶりじゃないか!」  見なくてもわかる。戦士だ。相も変わらず青の甲冑で美形だが、自信家なのも変わらない。彼とは最初の依頼以降会っていなかった。 「久しぶり、元気そうだね」 「もちろんだ。オビイチ師匠の元で修行しているからな! 遊撃隊に任命されたのだ。かの黒死龍、この私が討伐してくれよう!」  剣を抜き、頭上に掲げる。周囲の注目に気づき、僕は慌てて話題を変えた。 「魔法使えるようになった?」 「うむ、氷結系魔法だ!」  なるほど。熱血性格とは真逆の魔法だったのか。  僕は戦士も含めて、皆が遥か先を行くように感じた。
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