わりに合わない緊急依頼<襲来>

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 夕刻時、西日を背に暗黒の龍が山影から姿を現した。全身を黒い苔が覆っており、それに根ざした草木が病的な細さで群生している。羽は退化しているようで、見える限りは翼膜も狂気じみた死の生態系に覆われていた。龍の身体は巨大戦艦ともいえるほどで、山が動いているかのように感じられる。萎びた蔦に覆われた龍の目は蒼く濁っており、人間なんて見えていないようだった。  第三拠点より零ナナ式魔導キャノンの砲撃が始まる。濃度の高い悪性魔力によって、鋭い閃光が目に見えて拡散している。次々と着弾するも、強力な威力減退を受けたそれは巨竜の侵攻を阻むには至らなかった。  龍の森から甲高い声をあげて、黒い羽毛と爪のはえた翼竜の群れが一斉に飛び上がる。猛禽類のような強靭な脚をもち、牙が揃ったくちばしは、いつか見た始祖鳥そのものだった。  巨大なカタパルトが唸りをあげて巨石と礫を飛ばす。尖った岩石は笛のような音を立てて襲い掛かる。絶え間なく降り注ぐ礫の合間を縫って、魔導キャノンの閃光が雷のように降り注ぐ。文字通りの嵐だった。  それでも敵はゆっくりと、着実に前進してくる。  龍が拠点前へと到達し、第二次作戦へと移行する。拠点は奥へ奥へと誘導するような形状となっており、拠点前が最も火力を集中させられる。作戦の要となる場所だった。脇の門が開き、馬に跨った遊撃隊が出てくる。彼らは隊列を組み、少しでも気を引こうと龍の目元に向かって魔法を散らす。龍の代わりに空から始祖鳥が襲い掛かる。けたたましい鳴き声を上げ、死の使いとして飛びかかった。  やつらは後衛の僕たちの元にも飛んでくる。遠距離魔法による対空砲火が開始された。  近くで悲鳴が上がった。始祖鳥が男に襲い掛かかり、爪が肩に喰いこんでいる。僕は走りながら背中の両手剣を引き抜くと、勢いに任せてぶっ叩いた。  金属のぶつかるような音が響き、柄を通じて衝撃が伝わる。始祖鳥は空中でよろめくと、二、三鳴き声を上げ、男を放し空へと舞い上がった。 「大丈夫ですか」  僕は男の傍に膝をつく。幸いにも出血は少ない。僕は布を出し、男に抑えるように言った。だが男の意識は絶え絶えで、今にも気絶してしまいそうだ。  あちこちで人が倒れ始める。どこかから叫び声が上がった。 「ペストだ! あいつらペストを運んできやがった!」  男の目から光が消えた。 
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