わりに合わない緊急依頼<襲来>

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 そこからは地獄だった。  死体はすぐさま焼却された。怪我人はすでに感染したものとみなされ、命ある場合は急ぎ隔離された。だが医者も足りなければ、有効な薬も治療法もない。隔離施設は一度入ったら出られない、棺桶そのものだった。  始祖鳥は攻撃の手を緩めない。  悪性魔力の濃度が高まり、魔法は本来の威力を発揮できていない。加えて敵は異様に硬く、どれほど強く叩きつけたとしても、致命的な一撃を与えるに至らなかった。腐臭と血の匂いが満ち溢れる。飛びかかってくる敵に全力攻撃をぶつけたとき、軋みをあげて拠点が倒壊するのが見えた。  砂埃の中から、死の影が迫ってくる。  あってはならない第三次作戦へと移行したのだ。拠点から城壁までの距離は、わずか数十メートルしかない。死に至る絶望の病は、味方を包み込んでいた。  希望ならある。  僕は落ちていた槍を拾い上げ、破れたギルド旗を結わえ付ける。そして動かなくなった始祖鳥の体に飛び乗った。 「あきらめるな! 希望ならまだある!」  また一人倒れるのがよく見えた。 「絶望に呑まれるな! 希望の糸を掴め! 地獄から這い上がるぞ!」  地響きと共に龍が一歩近づいた。 「僕たちは、勇者だろ!」  戦場が無音になる。  僕は風を感じ、ギルド旗を掲げた。  勇者の象徴である剣と盾を合わせた光沢ある刺繍が、沈みかけた太陽の光を受けて輝いている。  一人、倒れた勇者が立ち上がった。そしてまた一人、もう一人と。  ボロボロになった勇者たちの雄たけびが一つになり、戦場に木霊する。  胸に秘めた熱い思いは、無限の未来へと駆けていく。  頭上から始祖鳥が襲い掛かってくる。剣を抜きかけたとき、氷の塊がそれを突き飛ばした。 「つかまれ!」  馬に乗った戦士が片手を出す。すれ違いざまにその手を掴み、勢いつけて彼の後ろに飛び乗った。 「滅茶苦茶ではあったが、素晴らしい演説だったぞ!」  僕は鼻で笑う。 「そっちこそ、死んだと思ったよ」 「後で言い訳させてもらおう。剣に誓って、私は断じて逃げたわけではない!」 「後があったらね」  迫る翼竜を氷の礫で吹き飛ばす。 「で、どうするのだ?」 「零ハチ式魔導キャノンを起動する。城壁へ向かってくれ」  一時止まっていた兵器類の攻撃が激しく再燃している。僕は零ハチ式の噂が本当であることを、神や仏に強く祈った。
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