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物資の配送先一覧を見ていたとき、気になったことがあった。貯蔵庫への魔力石の搬入量が極めて多かったのだ。各魔導キャノンには必要十分の魔力石が分配され、それでもなお数倍もの石が、城壁地下の貯蔵庫に運び込まれたのだ。
「もし本当に零ハチ式があるとしてだ。なぜ誰も稼働させていないのだ?」
地下は静かだった。地上の砲音は小さく、別世界のように感じられる。湿度が高く、服が肌に張り付く。身長を優に超える大樽が無数に並び、光の届かない暗がりへと消えている。ポーチから松明を取り出す。炎が奥へと揺れている。
僕らは急いだ。
闇の中に小さな光が見えた。炎とは違う揺らぎのないオレンジの灯りだ。それは腰ほどの高さの石の台座で、埋め込まれた円盤には目盛りのような模様が浮かんでいる。試しに手をかざすも、何も起きなかった。
「戦士」
彼は円盤を90度回す。暖色から寒色へと変化し、台座から電子回路のような光が大樽と直結する。外の様子が空中に描写された。死の龍が二脚で立ち上がる。低い、ホルンのような長い咆哮がハッキリと聞き取れた。
「魔力純化率、八割! いける、いけるぞ!」
ひと際大きなさざれ石が首筋に直撃したとき、闇の中で魔力石が転がり落ちる音がした。大きくバランスを崩した龍は、尾をしならせ体制を立て直す。僕は松明を片手に、両手剣に手を添え樽の影に回り込む。幾本ものブルーのラインが通路を描いていた。
なにもいない。
両手を下ろし、ため息をついたとき、死の鳥が頭上から飛びかかってきた。
咄嗟に松明で殴りつける。
小さな炎は弾き飛ばされ、遠くへと転がっていく。
剣を抜き、見えない敵に目を凝らす。
樽に背を押し付ける。
目の前に一つ、魔力石が転がり落ちてきた。
手に取ると艶やかな石に鋭い傷が刻まれている。
落ちてきた先に目を向けたとき、固く、黒い羽が舞い落ちてきた。
けたたましい鳴き声が真上から響く。
迫る陰に、片手で剣を叩きつける。
悲鳴にも似た叫びが上がり、地面に落下した。
それは石の床をひっかき回し、鋭く威嚇する。
翼膜を広げ、低空を這う。
魔力石を握った手から炎があふれだす。
正面から迫る陰にあわせて、思いっきり殴り飛ばした。
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