わりに合わない緊急依頼<襲来>

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「やりましたよ、戦士さん!」  僕は脳をめぐる興奮を感じ、速足で戦士の元へと向かう。彼のまなざしはいつになく真剣で、鋭かった。 「あのコボルドだって倒せなかったこの僕がですよ。よくわからん鳥は倒せちゃったんですよねー。これはレベルアップ間違いない」 「話の途中ですまないが、問題が発生した」  大きな揺れに襲われる。黒の龍が体当たりをしてきたらしい。 「99%で魔力純化率が止まってしまったのだ」  何もなかったといいかけたとき、焦げた臭いが鼻をついた。樽に手を当てながら戦闘場所に戻ってみると、樽が燃えていた。 「こちらで問題が起こった」  炎は樽から樽へと燃え広がっている。 「戦士、今すぐ発射するんだ。火事だ、逃げられなくなる!」 「待ってくれ。威力が下がる上に、何が起こるかわからんぞ」 「なら撃たずにここで犬死にか?」  龍が再び立ち上がっている。巨大なそれは城壁の高さを優に超える。城壁だって長年の風雨にさらされ劣化しているのだ。いつまでも攻撃に耐えられるとは思えない。低い咆哮が聞こえてくる。  戦士は歯を喰いしばっていた。 「戦士」  僕は戦士の手に、手を置く。 「君は何のために戦士になったんだ?」  目が合う。その瞳には小さな炎が宿ったように見えた。 「ここに来て言い間違えるのはいただけないぞ」  僕の肩に手を置く。 「だが、私とて理由はある。ここで終わるわけにはいかない」  彼は肩から手を放し、両手を石板に乗せた。 「先に出ているのだ。あとから行こう」 「戦士、僕も一緒に」 「早く行け! 君も理由の一つなのだ」  僕は煙に目を瞬かせながら、動かぬ足を無理やり動かす。薄明りだけを頼りに、必死に前進する。  やがて出口にたどり着く。  陽が沈んだ空は暗く、月だけが明るく輝いている。  悪夢の化身は立ち上がったまま、一歩前進する。  僕は馬に跨り、城壁から離れる。  また一歩、悪夢が前進した。  眩い光が、闇夜を払った。  甲高い、悲鳴のような音が聞こえる。  おくれて届いた強力な風に、必死になって馬にしがみつく。  城壁から延びる希望の光が、闇の身体を押し戻す。  龍は光を嫌い、避けるように前足を着く。そして長い尾を向け、月に向かって歩き出す。  再び夜が訪れたとき、城壁は瓦礫の山と化していた。
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