わりに合わない緊急依頼<追走>

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 崩れた城壁に沿って馬を駆る。  魔導キャノンの反動によって融解し、瓦解した城壁に目を走らせる。各所では勝利の雄たけびが上がっていた。瓦礫の山はうずたかく、彼の姿も見当たらない。馬の歩みを緩め、あきらめかけたとき、見覚えのある青い籠手がのぞいていた。  僕は飛び降り瓦礫に両手をかけるが、ビクともしない。僕は背中の槍を抜き、ひときわ大きな瓦礫の下に差し込んだ。  ゆっくりと、ギルド旗が上がる。  月明かりの中、風を受け大きく膨らむ。  瓦礫の下から、血まみれになった戦士が姿を現した。槍を突きたて、彼の身体を引きずり出した。兜を外し首筋に手を当てる。幸い脈はあった。  美形だった。髪にベッタリと血がついてなお、北欧の神のようだった。甲冑を外し、呼吸を楽にさせる。一つ一つがとても重たい。僕のレザーアーマーとは比較にならなかった。 「君か……」 「撃退したよ。戦士のおかげだ」  僕は彼の身体を抱きかかえる。甲冑の割に、彼自身はとても軽かった。 「あっちは東か」  彼はうっすらと目を開け、力のない手で僕の手を取る。青い目が、月に向かう黒龍を見ていた。 「東にある街は、どうなるのだろうな……」 「街なんて……」  ない、と言いかけ口をつぐんだ。向かう先にはダイナモ村がある。良くしてくれた村人や、薬師のおじいちゃんを思い描いた。  戦士が激しくせき込む。首筋が、黒く変色しつつある。  僕はつい眉間に皺をよせていた。 「大丈夫だ。ここにおいていけ。そんな目をするな」  近くに医者がいないか探す。しかし医者どころか、まともに動ける人間すらいなかった。 「早く行け。君にまで感染したら地面に埋まった甲斐がない」  彼の言葉を無視して馬に乗せる。そして全速力で走らせると、救護テントへ運び入れた。 「誰か、助けてください!」  すぐにやってきた看護師が、彼を見て目を見開く。有無を言わさず僕の背を押すと、テントの外へと追いやると、彼に黒のタグを括り付けた。  僕はヒーリングポーションのふたを開ける。ツンとした臭いが鼻をつく。彼のわずかに開いた口に流し込んだ。  空容器を置き、立ち上がる。僕は一人で馬に跨ると、東へと全力で走らせた。
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