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「手前勝手な理由だが、私は手の届く人を確実に助けたい。蛮族から世界を救うとか、そんな立派なことができる人間ではないのだ。たとえ世界を守らねば勇者でないと言われようとも、一人を確実に守れるようになりたい」
立派なのはあんただったよ。
黒死龍は戦闘エリアから離脱しつつある。カタパルトも大砲も、魔導キャノンも、すべてが鳴りを潜めていた。龍に近づくにつれ、始祖鳥の数も増してきた。
魔法を扱えない分、襲い掛かる敵を片手で薙ぎ払うしかなかった。剣は重たかった。でも戦士の甲冑には及ばなかった。何度も落馬しそうになりながら、逃げる絶望を追いかける。
こんなことをするのは僕だけだった。本当に割に合わない。
龍の尻尾を追い抜いていく。倒れた木を飛び越え、襲い来る始祖鳥を潜り抜ける。龍の背中から起こる土砂崩れに負傷しながら、何とか並走する。
剣を納め、萎びた蔦を掴む。そして馬の背を蹴ると、腕の力だけでぶら下がる。馬に始祖鳥が襲い掛かり、転倒した。
敵の一体が目ざとく見つけ、耳障りな鳴き声を上げる。くちばしから黒曜石のような歯を鈍く輝かせ、僕の脚にかみついた。
大量の血が抜けていく感覚があった。二、三度蹴るも、クソ鳥に離す意志はないようだ。
僕は好きに噛ませておいて、蔦を手繰り寄せることだけに集中した。
何度も蔦が切れ、落下しかけた。そのたびに僕は、何度も何度も上りなおした。
やがて龍の背に身体を投げ出す。僕は剣を取り、足元の敵に突きたてた。敵はようやく離すと、地面を這って逃げていく。頭上に剣を掲げると、小さな頭に向かって振り下ろした。
ヒーリングポーションはもうない。龍の背は独自の生態系を保持しているようで、ラヴクラフト的表現を借りるなら、冒涜的で菌類じみたシダ植物の多い死の生態系だった。
何らかの植物が胞子をまき散らす。月明かりを受け、黄緑色の蛍光色を放っている。
僕は不本意ながら培われたレンジャースキルによって、独自に進化した救急草を見つけ出す。とりあえずの応急措置を施すと、鉛色の歪んだ木にもたれ掛かる。
一瞬の気の緩みをついて、強烈な眠気に襲われる。
僕は眠りすぎないよう気を付けつつ、目を閉じた。
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