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まだ陽が昇る前、切るように冷たい風がスカートに触れる。
蜘蛛の巣が張った蛍光灯が、瞬きながら純白の光を落としている。無人の駅に、静かに粉雪が舞う。
私は電車を待ちつつ本を読んでいた。ある剣士の男の子が別世界に行き、猫の少女とトカゲの男と共に、勇気を示す物語だ。
ちょうど、三周目の佳境に入っていた。主人公が自分自身と対峙している。私はこのシーンが好きではなかった。
点字ブロックの上を、一人の老婆が歩いてくる。手押し車を押しながらも、その足取りはおぼつかない。
近くの踏切が鳴り出す。そして、緩やかなカーブのさきに光が現れた。
偽物の主人公は強い。
突風が吹き、老婆がホームから転落する。電車注意のアナウンスが鳴った。
老婆が私を見上げる。私は目をそらした。
列車が金属音と、警笛を鳴らしながら駅に進入する。
本が落ち、ページがめくれた。そのページはライバルの男の子が自分自身に殺されたシーンだった。
龍の背で目を覚ます。咆哮が警笛のように聞こえる。まだ血が止まっていない。僕は余った救急草をポーチに入れ、剣を突きたてて立ち上がった。
策があるわけでもなかった。とにかく前へ前へと進んだ。龍は陸をゆく船のように、大きく揺れていた。
見たこともない羽虫が、蛍のように光っている。時折、萎びた木の合間をウサギのような生物が二、三駆けていくのが見えた。
低木に邪魔されながらも、慣れた手つきで道を切り開いていく。時折、歪な救急草や魔服草を見つけては、そのたびにポーチに入れた。
やがて視界が開けた。
撃退戦の傷跡深く、龍の肩から先は自然が薙ぎ払われていた。魔導キャノンの焼け跡、カタパルトのクレーター、大砲の爆発痕に満たされている。
空からけたたましい鳴き声が聞こえた。始祖鳥の群れが空を覆っている。
龍はちょうど山を越え、下りに入ろうとしていた。その目と鼻の先に、ダイナモ村がよく見えた。
命を懸けてでもこの龍を止める。今度は逃げない。
僕は剣を抜くと、全速力で駆けだした。
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