わりに合わない勇者道

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「はい、おしまい」 「え、もうですか」  僕は助手の少女を急き立てる。 「まだ仕事が残っているんだから」 「先生の話、伏線ばかりで回収しきってませんよ」  僕たちは渓流を超え、さらに奥へと入っていく。 「先生って、黒死龍を一人で倒したんですよね? 報酬どうでした?」  薬草を探すふりをして、彼女から目をそらす。ここらには魔服草しかなかった。 「……20まい」 「え」 「金貨20枚!」  あの時のことを思うと、ついため息が漏れ出てしまう。 「なら、今診療所をやっているのって」 「命令無視、単独行動が原因で勇者活動を無期限禁止にされたから……」 「あぁー」  今日は救急草が見当たらない。こんなことは今までになかった。 「元気出してください。ほら、この後うちとお酒でも行きません?」 「すまんね。せっかくだけど遠慮しておくよ」  森の中を進む。ふと振り返ると、彼女が遥か後ろにいた。すぐに追いついてくる。 「前世ってどんな人だったんです?」 「前世かぁ」  龍の死骸にたどり着く。周辺は悪性魔力に汚染されたが、自然は時を経て勝利した。悪性魔力も取り込んで、付近の救急草はペストに効く唯一の材料となっている。 「今と変わらなかったと思うよ。ただ転生しただけじゃぁなにも変わらないさ」  今日はもう諦めかけたとき、例の声がした。 「探し物はこれかな!」  死骸の上から青い甲冑が姿を現す。手には救急草があふれた袋が握られていた。 「お前が取り尽してたんか!」  降りてきた彼を殴りつけるが、甲冑を前に手を痛めるだけだった。 「そう怒るな。ちゃんとやる」 「僕の時間と労力を返せ!」  怒りつつも口元は緩んでいるのが自分でもわかる。 「このお方が噂の戦士さんですか」 「戦士ではない、勇者だ! 証明書もほら!」  彼は証明書を出す。 「おぉ、紫か。出世したねー」 「うむ、積もる話もあることだし、飲みに行こうではないか!」 「いいね、行こうか。今日は終わりにしよう」  戦士は僕の手を取り、一歩前を行く。村へと戻りかけたとき、彼は立ち止まった。  呆けたように立ってい少女が、口元に手を当てて叫んだ。 「看護師やめて、勇者になってやる!」  僕はつい噴き出すと、思い切り叫び返した。 「勇者の道はやめなさい! わりに合わないから!」
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