琉海の危機

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 琉海が人混みに目を向けた瞬間、1台の車が突っ込んできた。  悲鳴が聞こえた。  未來は屈めた腰をのんびり伸ばし振り返ろうとする。  琉海には全てがスローモーションのように見えた。  車はまっすぐに未來の方に走ってくる。  未來!危ない!  琉海はとっさに未來に体当たりした。 「琉海!」  大冴の叫ぶ声が聞こえた。  背中に強い衝撃を受け琉海はそのまま地面に投げ飛ばされた。  目の前が一瞬真っ暗になる。  激しく何かがぶつかる音と悲鳴がその後も聞こえ続ける。  いったい何が起きたのだ。 「琉海、琉海!」  大冴が琉海の体を抱きかかえた。 「琉海しっかりしろ」  背中が生暖かい。 「琉海ちゃん!」  大冴の横に未來の顔が見えた。 「救急車、救急車呼ばなきゃ」  未來が震える手でスマホを取り出す。  その間も遠くで悲鳴が聞こえている。  誰かが「車の暴走だ!」と叫んだ。 「だめ、救急車は……だめ」  琉海は大冴にすがった。  病院に運ばれたら人魚だということがバレてしまうかも知れない。  背中の生暖かさがどんどん広がっていく。 「おい、しっかりしろ」  琉海を抱きしめる大冴の手にべっとりと赤い血がつく。  はらりと指の間から赤い鱗が落ちた。  琉海の背中部分の服が破れ血まみれになった肌があらわになっていた。  その背中に次から次へと血に染まった鱗が浮き出る。  大冴はそれを自分の着ている上着で隠した。 「未來!俺の車持って来てくれ」 「えっ、救急車だろ」 「救急車待ってる時間ない」 「分かった」  未來は駆け出した。 「しっかりしろ琉海」  琉海は弱々しく微笑んだ。 「この前は……あたしを殺そうとしたくせに……」 「うるさい、しゃべるな」  すぐに未來は戻って来た。  大冴は琉海を抱きかかえ後部座席に乗せると運転席に乗り込んだ。
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