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ドアが壊れるのではないかと思うほど灯台男が強く叩き続けるので琉海は仕方なくシャワーから出た。
囚人服を着た琉海を見て灯台男はお腹を抱えて笑った。
それを見ているとさっきまでの楽しい気分が吹っ飛び琉海はだんだんと腹が立ってきた。
「おい奴隷、喉乾いただろう、ほら水だ」
灯台男は犬用の食器に注がれた水を指差した。
この男のとこにいるよりバイクでひったくられたり、誘拐されたり、無期懲役になった方がマシに思えてくる。
「琉海」
「は?」
「あたしには琉海って名前がちゃんとあるんだよ灯台男。それにあたしはね、本当は伝説の姫なんだ。あたしが陸の王子を見つけて契りを結んだ暁には、あんたみたいな平民の人間の男はあたしに近づけないんだからね」
男が信じないのは分かっていた。
でも琉海は言わずにはおられなかった。
ただ人魚であることは伏せておいたが。
笑い転げるだろうと思った灯台男は予想に反して真面目な顔をした。
「その陸の王子を見つけてって、浜辺でおまえが聞いてきた溺れかけた男っていう奴か?」
「そうだよ」
「ふーん、おまえはそんなにその陸の王子とやらに会いたいのか」
「当たり前でしょ」
「じゃあ、会わせてやる。俺だ」
「え?」
「おまえが探しているその陸の王子とは俺のことだよ。この前の嵐の日ヨットで海に出て溺れたんだ。奇跡的に浜辺に打ち上げられて助かったけどな」
嵐の日、ヨット、浜辺。
全て合っている。
灯台男の言っていることは嘘ではない。
「でも、さっきは」
「さっきはおまえが美人局だと思ったから嘘をついたんだよ。でもどうやらおまえは美人局なんかじゃなくて、ただの頭のおかしい女みたいだな」
琉海はがくりとその場に膝をついた。
琉海の希望は砕け散った。
これで一生お肉食べ放題の夢は消えた。
食べ放題は1年限定になった。
でもまぁ考えてみれば、この灯台男だったらなんのためらいもなく殺せる。
今すぐにでも殺したいぐらいだ。
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