念願の肉

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 家に戻ると男の姿が見えない。  また出かけてしまったのだろうか?  なんとなく足音を忍ばせて家の中を見てまわるとさっき鍵がかかって入れなかった2階の1番奥の部屋から灯台男が出てきた。 「なんだおまえ、戻ってきたのかよ」 「仕方ないから居てやる」 「はっ、おまえ本当にイカれてんな。ま、家政婦クビにしたからちょうどいいや、住み込みを1人雇ったと思えば」  灯台男はたくさんある部屋の中で1番狭くて暗い部屋を琉海に与えた。  ケチな男だ。  使っていなさそうな広くて居心地の良さそうな部屋はいくつもあるのに。  伝説が叶って海が世界を制した暁には、こいつなんか深海につないでやる。  あ、伝説が叶うことはなかったんだった。  1年後あたしはこいつを殺して人魚に戻るんだった。  伝説を叶えてこいつを一生いびり倒してやってもいいが、こいつと契りを結ぶなんてまっぴらごめんだ。 「毎日家中ピカピカにしろ。ただし俺の部屋はいい。俺の部屋には入るな」  さっき灯台男が出てきた鍵のかかっている部屋が男の部屋らしかった。 「あんたこの家に1人なの?」 「あんたじゃない、大冴さまだ」 「大冴、あんたこの家に1人なの?」  大冴は小さく舌打ちをした。 「俺だけだよ」  こんなに大きな家でこんなにたくさんの部屋があるのにと琉海は思った。  海に戻れば琉海にはたくさんの姉たちがいる。 「寂しいやつだな」 「うるさいな、ここは避暑地の別荘なんだよ。休みでここに来てるんだ、都内に戻れば」 「避暑地?都内?」  大冴のお尻のポケットでスマホが鳴った。  大冴は誰かと電話で話すとまた出かけて行った。  出かけ際に「家中の床を拭け」と琉海に命令した。 「え?さっき、家政婦の女の人が掃除はすんだって言ってたよ」 「床を見ろ」  見るとうっすらと白い。 「海風にのって砂が入り込むんだよ」  犬も連れて大冴が出て行ったあと琉海は渋々と雑巾がけを始めた。
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