海の姫と陸の王子

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堤防に1人だけいた釣り人からこっそりおにぎりを盗んだ琉海は近くの岩陰に隠れてそれを頬張った。 「あ!お肉が入ってる、当たりだ!」  あっと言う間におにぎりを食べ終わった琉海は雲行きが怪しくなってきた空に向かってぼやいた。 「もっと食べたぁ?い」  虹色の尾っぽを振ってぽちゃぽちゃ水面に飛沫を立てる。  人間になったら毎日お肉食べれるのかなぁ。  でも人間の男と恋をしなくちゃいけないなんて面倒くさいなぁ。  だいたいなんであたしは伝説の人魚なんかに生まれてきちゃったんだろう。  そんな大役はっきり言って重荷なだけだ。  あたしは普通の人魚でよかった。  相手の人間の男を殺せば人魚に戻れるっていうけど、人殺し人魚になるのもなんだかなぁ。  それに養育係なんてあたしには絶対勤まらなさそうだし、つまらなさそう。  誰か他の人魚にバトンタッチできるならそうしたいものだ。  お腹いっぱいお肉を食べるのが夢ではあるけれど、人間になったらそれができるのかもしれないけど、あたしは自由気ままに海の中で生きていく方がいい。  ずっと陸の王子が見つからなければいいのに。  ぽつりと水面に小さな波紋ができた。  重い雲がついに雨を落とし始めたのだ。 「おーい、雨降ってきたぞー」  すぐ近くで人間の声がした。  琉海は慌ててぽちゃんと海に飛び込んだ。  危ない、危ない。  人間に見つかったら姉たちに怒られる。  普段から琉海は姉たちから無駄に人間に近づいてはいけないと厳しく言われていた。  堤防や海岸に近づいていいのは人間の男が溺れる可能性のある嵐の日だけ。  琉海は大事な伝説の人魚なのだ、もしものことがあっては大変だ。  でもそんな姉たちの言いつけを守るような琉海ではなかった。  それでも琉海だってちゃんと分かっている。  人間に見つかったら滅多打ちの半殺しにされるか、捕まって見世物にされるかのどちらかだ。
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