青空

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 昭和二十年八月六日、僕は婚約者の初子と広島駅で午前八時に待ち合わせをしていた。そこから(くれ)へ戻り上官へ挨拶廻りをしたあと、同期で作戦に出ていない者が婚約祝賀の宴を張ってくれる手筈だった。  第二種軍装(だいにしゅぐんそう)に身を包んだ僕は靴の色を黒か白か決めかねて――この日に何が起こるか知っていたら、たとえ白と黒片方ずつであっても初子を迎えにいっていただろう――同期に冷やかされ、待ち合わせに間に合わぬまで諍いを起こし、慌てて兵舎を飛び出すところで上官のFさんに捕まった。 「おい、広瀬。お前、まだ出ていなかったのか」 「はい。申し訳ありません」 「仕方のないやつだ、許嫁(いいなずけ)を待たせるとは。いまから行ったら一時間は遅刻だぞ、おい」     
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