第二章

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 蛇神がうちに居候を決め込んだ後。肝試しの件で『縁結びの神社』として有名になり、参拝客が激増した。今は蛇神の配下がバイトでシフト組んでくれてるけど、当時は間に合わず蛇神自ら接客してた。ご利益ありそうだ。  そしたら、「イケメンなバイトくん、名前教えて」ってなるよね。困ってたんで、あたしが適当な思い付きで答えた。  八岐大蛇→8→息子だから一個数字増やして9→男……で、九郎。 「構わない」 「ふぅん? まぁそう呼んでほしいならそう呼ぶけど」 「ああ。ところでそれ一口くれないか?」 「自分で取ってくれば?」 「いいじゃないか、一口くらい」 「別にいいよ。はい」  余分に持ってきてたフォークで手をつけてない ケーキを切り分け、差し出す。パクっとひな鳥よろしく食いついてきた。蛇だけど。  ん? なんか、「キャー」とか声した? 気のせいか。 「ん、美味い。あ、東子、クリームついてる」  ペロっと頬なめられた。  思わず眉間にシワ寄せる。 「嫌だったか?」 「いや、ていうか……あたし人外のものも視えるじゃん? 基本重なって視えるんだよね。つまり今、蛇の長い舌が視えてちょっとビビった」 「……あ、それはすまん。……難しいな」  うーんとうなってる。なぜ。周りの女性客もまた「キャー」って言った?  帰り際、九郎は店長と話してた。普通の人間に擬態してるけど、あたしには本来の姿が重なって視えた。鳥の妖か。 「どうかしたの?」 「猛暑の影響で高騰してる材料がいくつかあって、予定してた新メニューが無理そうだと。実をつけても小ぶりで、正規品として売れないらしい。まったく、奴は自分のテリトリーの民の暮らしを守ってなかったのか」  奴、とは九郎をハメた張本人。ここらで一番大きい神社に祀られてた土地神もどきだ。諸事情でもういない。その話は前話参照。 「土地神がサボってても、他に神様いたでしょ」 「神にもルールがあってな。土地神は知事のようなもの。この街は奴の領地だったわけだが、みな奴の本性を知って逃げ出していた。下手すれば食われるからな。あまり人ならざるものがいなかったのはそのせいだ。おかげで東子は助かってたわけだが。力を持つ人間は格好のエサだ」 「うわ。禍を転じて福と為すか。ルールは分かるけど、あまりにひどい場合は対処すべきでしょ」
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