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それでも、知らないなんて言い出せる雰囲気ではなかった。たぶんそれを言ったら丸山は激怒するのだろう……それがわかりきっていたから。
だから、『あの、クラスのやつらに、さ』と曖昧にぼやかした返ししかできなかった。
『……っ、クラスのやつらに?』
しゃくり上げながら、そう返された。
『え、』
『わたしがクラスのやつらに、何されてたって?』
『えっ、あの……』
『わからずに大変だなんて言えないもんね? 知ってるんだろ? ねぇ、言えよ、言ってみろよ、……』
制服の裾を握る丸山の手が小刻みに震えてきて、握る力もますます強くなって、言うまで家に帰さない……そう言われているような気になった。
怖かったし、申し訳なくもなった。
でも、同時に僕の中にも彼女の気持ちが伝染したのか、徐々に苛立ちが芽生えていた。
どうして、こんな風に引き留められなきゃいけない?
こんなの、ただのとばっちりじゃないか。
彼女は今、僕と同じような立場なのに。
そんな、今思うとどうしようもないことを思ってしまった。できることなら、謝りたいとすら思ってしまう。
けれど、その日の僕はそれをぶつけてしまった。
『あのな、僕だってそんなようなことはされてきたんだよ! お前らは知らないだろうけどさ、殴られたり、いろんなもの汚されたり、小遣いだって全部取られたし、したくもない万引きとか、それに変な嫌がらせをさせられたりもしたんだ! それをさせてた側のくせに、いざ自分がこっち側に回ったときにそうやって言うのおかしくね!?』
『……なに、それ』
来るなら来い、それくらいのことも、思ってしまっていた。逆ギレするようなやつだって見下してやろうと思っていた。
でも。
『何だよ、わたしがされてるのと全然違うわ、なにそれ』
その瞳は、とても暗かった。
暗闇を見ているような気持ちになる、とても暗い瞳で、丸山は僕を見つめてきた。
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