認められなかった過去を

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 丸山(まるやま)の身に起こった出来事は、それでは終わらなかった。休み時間になると明らかに丸山の方を向いて、たぶんそれこそ露骨に――本人に気付かせようとしているみたいに――陰口を叩く姿が目についた。  たぶん、根も葉もない噂なのだろう、けれど発信力のある連中がいう言葉が恐ろしいってことは、きっと丸山自身がわかっていたはずだ。  だからこそ、必死になって不名誉な噂を止めようとした。  ただ、それは僕らの目から見てもわかるくらいに無意味で、逆効果にしかならないことで。  結果、丸山は放課後になると毎日仲直り(・・・)と称してクラスの一部の連中に呼び出されるようになった。帰宅部で、授業が終わったら直帰の僕たちには関係のないことだったけど、それでも、毎回顔を硬くしながらどこかへ行く丸山の姿は、妙に焼き付いていた。  胸は痛んだ。  僕だって、そういう目に遭っていたのだから。気まぐれで呼び出されて、金を取られて。時々は家のタンスから抜き取ってまで、金を渡したりしていたのだから。  きっと丸山もそういう嫌な目に遭っているに違いない。そうは思うし、それを考えると胸が痛かった。  でもそれ以上に、僕から標的が逸れたことに安堵してもいた。  もう親から嫌な目で見られる心配をしなくていい。  もう友達の靴にトイレの水を入れなくていい。  もう女子の下着を盗まされたりもしないし、見つかるリスクを感じながら万引きをすることだってない。そういうものから解放されたんだという思いが、僕の中を占めていた。  だから、僕は確かにあった犠牲から目を背けて、安穏と過ごしていたんだ。
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