0人が本棚に入れています
本棚に追加
丸山の身に起こった出来事は、それでは終わらなかった。休み時間になると明らかに丸山の方を向いて、たぶんそれこそ露骨に――本人に気付かせようとしているみたいに――陰口を叩く姿が目についた。
たぶん、根も葉もない噂なのだろう、けれど発信力のある連中がいう言葉が恐ろしいってことは、きっと丸山自身がわかっていたはずだ。
だからこそ、必死になって不名誉な噂を止めようとした。
ただ、それは僕らの目から見てもわかるくらいに無意味で、逆効果にしかならないことで。
結果、丸山は放課後になると毎日仲直りと称してクラスの一部の連中に呼び出されるようになった。帰宅部で、授業が終わったら直帰の僕たちには関係のないことだったけど、それでも、毎回顔を硬くしながらどこかへ行く丸山の姿は、妙に焼き付いていた。
胸は痛んだ。
僕だって、そういう目に遭っていたのだから。気まぐれで呼び出されて、金を取られて。時々は家のタンスから抜き取ってまで、金を渡したりしていたのだから。
きっと丸山もそういう嫌な目に遭っているに違いない。そうは思うし、それを考えると胸が痛かった。
でもそれ以上に、僕から標的が逸れたことに安堵してもいた。
もう親から嫌な目で見られる心配をしなくていい。
もう友達の靴にトイレの水を入れなくていい。
もう女子の下着を盗まされたりもしないし、見つかるリスクを感じながら万引きをすることだってない。そういうものから解放されたんだという思いが、僕の中を占めていた。
だから、僕は確かにあった犠牲から目を背けて、安穏と過ごしていたんだ。
最初のコメントを投稿しよう!