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『えっ……と、な、なに?』
『なに、じゃないでしょ。さっきから見てたのは知ってんだよ。……いや、別にだからどうっていうのもないのに、ん……、ちょっと待って』
丸山自身の中でもなにか整理しきれない気持ちがあったのか、あー、だとかうー、だとか言いながら僕を引き留め始めた。
制服の裾を掴む手の小ささとかふと香ってくるシャンプーとかに、普段なら持たない気持ちを持ちそうにさえなってしまって。
そんな状況になったって、何を言えばいいのか、ろくに思い浮かばなくて、でもたぶんそのまま黙っているとどうにかなってしまいそうで。それをどうにかごまかしたくて、僕は口を滑らせてしまった。
『大変だね』
言うべきじゃなかったことには、言い終わってから気付いた。丸山の『は?』という声には棘しかない。
『言ってみろよ、わたしの何が大変なのか、何をどう見て大変だねなんて言えるのか、あんたは言えるわけ? 言ってみろよ、教えてよ』
激しい口調ではなかったと思う。
だからこそ、余計に丸山の怒りを表しているようで、そんな丸山が怖くなって、『ごめん、』と謝ったけれど、もちろん許してなんかもらえない。
『謝らなくていいよ、あんたはわたしが大変だって思ったんだろ? 何を見て、何を知ってるわけ? それだけ、教えてくんない?』
……そんなの、知るわけがなかった。
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