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で水が流れ下っている。川床の一本松も水しぶきでかすんで見える。 「曾木の滝、橋が架け替えられて風景がだいぶ変わったよね。もちろん高橋は、架け替えられてから来たことがあるんだろう?」 「テレビや新聞で知っていたわ。でも、架け替えられてからは初めてよ」 「テレビや新聞なんて見る暇もないの。本当にただただ流されていくだけの日々だわ」  和田聡子が急に話題を自分のことにすり替えた。  佳代には和田聡子の愚痴めいた一言が本音として聞こえた。沖田や自分よりも早くに家庭を持ち、教師として安定した収入を得ている自分の境遇を暗に級友に誇っているもの言いでは決してなかった。 「私、佳代と違って今は音楽そのものにまい進するという境遇じゃないのよ。大学に入った当初は純粋に音楽を目指そうと思っていた。でも、次第に音楽への情熱は薄れていった。教職に就いてからは特にね。自分の力、分かっていたし、それに教職の環境が許さなかった。音楽は、私にとって手段なのよね。歌や楽器で表現する喜びを知らない生徒との
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