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悪戦苦闘。佳代が目指している音楽の世界とは似て非なる世界かな。でも最近は、生徒との関係に手ごたえを感じるようにはなってきたけれどね」  聡子は佳代の痛いところを突いてきた。佳代もかつてその世界にいたのだ。学校は高校と中学で校種は違うが、佳代も和田聡子と同様に音楽教育の世界で奮闘していた。そして、結果的にそこを見限り、音楽そのものの世界で自らの活路を見出そうと今の生活を選んだのだ。 「私、正直言うと、高校の教師を辞めたことについてやましい気持ちがあるの。聡子の何もかも呑み込んだうえで自分の世界を創っていくそのバイタリティには叶わないわ。でも、私、平穏な気持ちで毎日を過ごしていられるのが何より幸せだと今、つくづく感じているの。おおよそ音楽だけに向き合っていける安らぎと引き換えに大きな代償も支払ったけれどね」  沖田は、佳代と和田聡子のやりとりが重苦しいものになってきたことに戸惑っていた。久しぶりの再会なのに、話がなぜ深刻になるのだろうといぶかしく思った。しかし、それもこれもふたりが高校時代の音楽仲間であったことに起因しているのだ。
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