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「あの沖田クンが、地元に帰ってきて畜産の仕事をしているって聞いて本当に意外だった」  佳代があらためてそう言うと、沖田は少年のような大きく澄んだ瞳を一瞬だけ閉じた。 「俺は、工学部を卒業して専攻分野が生かせると思った会社に勤めたんだけれど、二年で辞めてしまった。要は、膚に合わない仕事に就いてしまったことに気付いたわけだ。その時、すぐに頭に浮かんだのが家業の牛飼いってわけだ。小学生の頃から牛の世話をしていたから知らず知らずにその面白さが脳に刷り込まれていたんだと思う。その感覚というか感情が遅まきながら噴き出してきて、堪らずに家に舞い戻ったというわけだ」 「家の父も沖田クンのこと、褒めまくっているわよ。沖田クンの存在が集落を活気づけているって。そして、早くヨメさんを貰ってほしいとも言ってるわよ」 「俺は集落で一番の若手だから、若手としてやるべきことをやっているだけのことさ。しかし、俺の後がいないわけ。そこが悩ましいところさ。だから、まあ、手本になるぐらい自分が頑張って、集落に後継者を呼び込もうと思っているところなんだ」
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