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  佳代は、そう言えばここ数年、高校の同級生の誰とも会っていないことに思い至った。わたし、ここにこうしているよーと、同級生の誰彼に呼びかけたい衝動にかられる。しかし、すぐにその気持ちは凋んでいく。懐かしい同級生に会いたいなんてプライドに欠けるあまちやんの言うことだと、もうひとりの自分が頭をもたげる。音楽家として堂々と胸を張ってみんなに会える日が来るまではそんなことを思うのも口にするのもご法度だと、さらにきつい戒めを受ける。そうなると、最初の自分はすごすごと仕方なく顔を引っ込めるしかない。母と口げんかをしたとき、「佳代は見た目によらずプライドだけは人一倍高いんだからねえ」と、よく皮肉を言われたことを思い出す。それにはそれなりのわけがある。佳代はプライドを高く保つことで、本当はくじけやすい弱い心を懸命に奮い立たせているのだ。 「佳代センセイ、こんちはー」  千夏と沙羅の二人の姉妹の声が響く。  佳代ははっと我に返った。
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