14/21

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
 沖田は、何かあったらメールすると言い、すぐに電話を切った。牧歌的という言葉があるように、酪農はゆったりとした時間の流れに身を任せながら仕事をこなしていくというイメージがあるが、沖田からはそのような雰囲気は醸し出されてこない。いつも何かせわし気である。  佳代は、また、数日前の母との会話を思い出した。母はいつも平静を装いつつ大の大人の佳代のこれから先のことを心配している。母の友達の息子さんのことを引き合いに出して、それとなく結婚に対する佳代の意識を喚起しようとも試みる。  とにかく、佳代は、当面、結婚する気はない。しかし、これから先、いざ、結婚しようと思ったときに適当な相手が見つかるか、それは分からないことである。なにしろ、地元に残っている若者は絶対的に少ない。高校の同級生は沖田だけである。そう、思ったときに突然、沖田が結婚の対象として佳代の脳裏に浮かび上がった。佳代は即座にそれを否定した。牛の世話に明け暮れている忙しない沖田の生活と芸術に携わる佳代の生活とが融合できるか、すごく疑問に思えた。佳代が目指している身近に音楽のある生活と厳しい酪農の生活は相容れない気がする。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加