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 音楽は生活のゆとりの中から生まれる精神的な産物である。音楽を生活の中心に据えている佳代からすると、沖田との結婚はあり得ないと思った。そのあり得ない結婚を脳裏に浮かばせた自分が不思議で、それがなんとなくおかしかった。  一週間が過ぎてすぐに日曜日がやってきた。午後、待ち合わせのミモザの扉を開けると、沖田が待ちかねたように佳代に向かって手を挙げた。労働で鍛えたたくましい上半身を包むまっ白なポロシャツが沖田の浅黒く彫りの深い貌を一層際立たせている。 「ほんのさっき、聡子、なんか受け持ちの生徒が事故に遭ったらしく、そちらに駆け付けなくちゃならないとメールが入ったんだ。今日、ここに来るのは無理かも知れん」  沖田は佳代が椅子に掛けるやいなや、心配そうな声でそう伝えた。  佳代は、思いもかけないことにびっくりし、そして、その見知らぬ生徒と聡子を案じた。佳代にも覚えのあることだった。担任する子供が事故や事件に遭遇したら、たとえそ
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