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見上げていると、中学時代の仲良しで地元のミッション系の学園に進学した友人から教えてもらった聖書の章句がふと口を衝いて出た。 「神は信頼に値する方です。耐えられないような試練にあなたがたを遭わせるようなことは決してなさらず、むしろ耐えることができるように、試練とともに、抜け出る道をも用意してくださるのです」  佳代は最後までつっかえずに暗唱できた。それに驚いた。そして、試練はむしろ今の自分にこそ与えられているのではないかと思わずにはいられなくなった。  聡子には生まれてくる子供を健やかに育てるという疎かにできない使命が目の前にぶら下がっている。それに引き換え、佳代には聡子のような抜き差しならない人生の課題なぞどこにも見当たらなかった。あったにしても乗り越えようとしたかどうかも、疑わしかった。ただ夢だけを抱いて徒に時に流されているような気がする。それこそが、救いのない試練のように思われて仕方がなかった。  沖田にも聡子にも会うことのないまま時が過ぎた。久しぶりにまた母の友達から聡子に関する新しい情報がもたらされた。
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