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麦茶を飲み干した千夏が思い出したように言う。沙羅もうなづく。
「名前、なんていう人だった?」
「たぶん、教えてくれなかったと思う」
佳代には見当がつかなかった。農業や畜産業を生業にする人なら農林高校の卒業生だろう。高校の同級生ではないような気がする。中学の時の同級生ではないだろうか。
「千夏ちゃん、教えてくれてありがとう。先生、今、ちょっとその人が誰だか思い出せないの。忘れっぽくてだめよねえー。今度また、そのお兄さんと会ったときに、名前聞いておいてちようだいね。おねがいね」
千夏は、先生に頼まれごとをされてうれしそうな表情で玄関を出ていく。
夏子の家も沙羅と千夏の家も同じ方角だ。連れだって小走りに帰っていく。佳代は三人の後姿が桜並木の向こうに消えて見えなくなるまで、大きく手を振り続けた。
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