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「ありがとうね。遠慮なく貰っておくわね」  母は掌のお札を押し頂くように捧げ持った後、それをエプロンのポケットに大事そうに仕舞い込んだ。佳代にとって三万円は大金である。二カ所の幼稚園での音楽教室と、三カ所のピアノ教室で得られる収入は教職時代の所得の半分以下だ。 「ごめんね、おかあさん、少ししか家に入れられなくて。今ね、そのうち私の部屋でもレッスンができるようにしたいと考えているの。そしたら、もう少し、家に入れる額も増やせると思うの」 「殊勝なことを言うのね。食事代さえ入れてくれたらいいのよ。たまには、お小遣いをたくさん持って福岡とか買い物にも行ってみたいでしょ?そのためには貯金も必要よ。若いんだから生活にメリハリをつけて楽しまなくっちゃね」  佳代は、両親に金銭的なゆとりがないことを知っていた。そんな両親にもう立派な大人の自分が金銭的なことで負担をかけることだけは絶対に避けたかった。
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