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 佳代の家は酒屋だ。昔は中心街の住人はもとより、盆地の付け根の山里の人々も遠くから焼酎をまとめて買いに来てくれたものだ。当時は佳代の家に限らず通りの商店はどこも羽振りがよかった。けれど時代が進み、県北の盆地のこの町にも大型の店舗が進出し、通りの商店街はどの店も客足が遠のいた。黙っていても売れた殿様商売は通用しなくなったのだ。今までの商売のやり方が時代にそぐわなくなったことに気付いた父は、絵を描くことが得意だったので、チラシを手作りして店頭に張り出したり、今までやっていなかった配達にも力を入れたりするようになった。  父の一番の変化は、お客さんに常に笑顔をふりまく母に見習い、自らもお客さんに対して愛想よく接することに心掛けるようになったことだ。小学生だった佳代はそんな父の変化の理由が分からず、思春期前期ということも相まって余計に父を避けるようになった。しかし、やがて中学生にもなると、父の様子の変わりようは店の経営事情と大いに関連があるのだということに察しがつくようになった。佳代は、父母の奮闘を目の当たりにしな
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