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がらこの先家業の酒店はどうなっていくのだろうと、子供心に気がかりだった。父母の必死の努力も、焼け石に水の状態が続く。成績のよかった兄の正は担任や進路指導の先生から県外の有名国立大にも合格できるとお墨付きを得ていたが、県外の大学への進学を諦めた。佳代が音大進学を希望していたからである。家の経済事情がさらに窮屈になることを慮った結果の決断だった。しかし、それも今となってははるか昔の出来事になってしまった。  盆地の夏は暑い。  公民館前の広場で夏子と千夏と沙羅の三人が練習を終えて帰るのを見送ろうとしていると、佳代の前に一台のトラックが停まった。 「あっ、佳代センセイの同級生のお兄ちゃんだ!」  いち早く気付いた六年生の沙羅が、いつになく大きな声をあげた。公民館前の広い駐車帯に停まったトラックの高い運転席から軽々と降り立った若者は、佳代にすぐさま敬礼をした。
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