【2】涙色

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 ――それは、突然だった……。  あまりにも予期せぬ出来事に、俺は悪い夢を見ているようだった。  ――兄貴が……  ――死んだ……。  ◇◇  あの日、帰宅が遅くなった兄貴は自転車で坂道を下り交差点に出る。そこに暴走車が突っ込み、自転車や歩行者を次々と跳ね飛ばした。死傷者九名の大惨事。  兄貴は……即死だった……。  自宅にいた俺達は、警察から電話を受け搬送先の救急病院に急ぐ。兄貴の死を受け入れることが出来ない家族は、真っ先に手術室に向かったが、すでに兄貴は……霊安室(遺体安置室)で眠っていた。  地下にある霊安室。  ドアを開けると、ひんやりとした空気が家族の身も心も凍らせた。 「陸……陸……りくーーー!いやあぁーー!」  お袋が兄貴に縋りついて泣いた。  頑固な親父が、兄貴の枕元にへたり込み拳を震わせながら男泣きした。 「なんでだよ……。何で兄貴なんだよ……」  どうせ死ぬなら……  出来の悪い俺が、死ねば良かったのに……。  兄貴みたいに……  優秀で親孝行な息子を連れて逝かなくても……。 「兄貴!兄貴!……あにきー!」
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